| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-148

子の危機に親は配偶行動を変化させるか?〜卵寄生蜂がアメンボに与える影響〜

*平山寛之, 粕谷英一(九大・理・生態)

交尾や繁殖に際して、雌雄の利害が一致しないために対立(性的対立)が生じる。一般に、適応度を最大にする交尾回数はメスよりオスで多いためにメスは余剰な交尾を強いられ、抵抗を示す。この交尾への抵抗は状況に応じて変化する(交尾経験、性比、捕食者の存在など)。性的対立に影響する要因の1つとして捕食リスクがあげられる。しかし、これまで研究されてきた捕食リスクは交尾を行う雌雄(親)に関するもので、雌雄共通の利害と考えられる子の捕食リスクは研究されていない。仮に、親である雌雄の配偶行動での協調あるいは対立が子の捕食回避効率(生存率)に影響する場合、親である雌雄はその協調や対立を子の捕食リスクに応じて変化させると考えられる。ナミアメンボ(以下、アメンボ)は卵を水面や水中の植物に産みつけるが、潜水し深い位置に産みつけられた卵ほど子(卵)に特異的な捕食者である卵寄生蜂による寄生率が低い。アメンボは卵寄生蜂を経験した場合に潜水し深い位置に卵を産み、また、メス単独よりもオスが交尾後にメスに乗ったままの状態(タンデム)であると潜水が長くなる。長い潜水時間は深い位置での産卵を行う上で有利であろうから、タンデムでの潜水が卵寄生回避に有利であると考えられる。アメンボでは交尾の受け入れやタンデムを維持する時間などに状況に応じた雌雄間での協調と対立が見られるが、この交尾前後の雌雄間の対立に卵寄生蜂の経験(子の捕食リスク)が影響することが予測される。具体的には、卵寄生蜂を経験した場合、卵寄生回避に有利と考えられるタンデムで潜水するために、容易に交尾を行う、あるいはタンデムの維持時間を長くするといった親の雌雄間の性的対立の弱まりが生じると予測される。本研究では、卵寄生蜂を経験したアメンボ雌雄と経験していない雌雄の配偶行動を比較した実験から、この予測を検証する。

日本生態学会