| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-152
ある捕食回避行動を採用する個体は、その行動を採用することで他形質においコストを被ることが多々知られている。最近になって研究例が増え出した対捕食者行動である、擬死(死にまね)は、多くの生物群で広範に観察される。しかし、これまでに擬死行動を行う個体のコストについて調べた実証研究はない。我々はコクヌストモドキ Tribolium castaneum において、擬死時間に人為選抜をかけた結果、擬死頻度が高く擬死時間の長くなった系統 (L-lines) と、擬死頻度が低く擬死時間が短くなった系統 (S-lines)を使って、擬死行動の捕食回避としての適応的意義、及びこの行動を取ることによるコストの存在について調べた。先行研究(Miyatake et al. 2008)より、本種においては擬死と歩行活動性に負の遺伝相関があることがわかった。一般に、動物の活動性は採餌や配偶行動などさまざま行動に影響を及ぼすことが知られる。そこで我々は、捕食者がいない状態での交尾成功率に、L-lines と S-lines で違いがあるかどうか調べた。またモデル捕食者であるアダンソンハエトリグモを使って両系統の捕食回避能力の違いについても検証した。実験の結果、雄では常にS-lines が L-lines よりも交高い交尾成功を示した。これに対し、雌では系統間で交尾成功に違いがなかった。捕食回避については、雌雄に関係なくL-lines がS-linesよりもよく生き残ることができていた。これらの結果は、特に雄において、擬死による捕食回避と交尾成功との間にトレードオフの関係があることを示している。本研究は、擬死を対捕食者戦略として採用することに潜在的なコストがあることを示したはじめての研究である。