| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-157
見知らぬ個体(未知個体)より、よく知っている個体(既知個体)に対して非攻撃的に振舞う現象dear enemy phenomenon(Fisher 1954)は、個体認知・識別の問題として、社会性昆虫から哺乳類まで、幅広い分類群で研究されている。この現象は、なわばり争いにおいても観察されているが、種によって示さないものがいることは説明できていない(Temeles 1994)。また、ある個体が、どの程度近接して分布する個体、あるいは、どの程度の時間隣接している個体を、親密もしくは脅威であると認知・識別しているのかについて明らかになっている種は少ない。
先行研究で、アカネズミのなわばり雌を用い、野外で闘争実験を行った結果について、なわばり雌はdear enemy phenomenonを示さず、未知個体より既知個体(隣接なわばり雌)に対してより攻撃的であることを示した。本研究では、さらに個体間の血縁関係について明らかにした上で、同一個体についてペアワイズ構造を加味した解析を行い、(1)隣接者とそれ以外を識別しているのか、それとも、なわばりの位置が遠くなるほど攻撃的であるのか(空間的認知・識別) (2)どの程度の時間、隣接しているかで反応が変わるのかどうか(時間的認知・識別)という2点について検証した。
その結果、既知個体に限って見れば、より近接している個体、および、より長く隣接していた個体に対して攻撃性が低い傾向が見られた。すなわち、対象を限定するとdear enemy phenomenonを示していた。なわばり雌は、既知個体と未知個体では既知個体に攻撃的であるが、既知個体の中では、より良く知っている個体に非攻撃的であるという2段階の識別を行っていることが示唆された。