| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-158

新たにレッドリストに記載された在来型コイの生態と行動

*松崎慎一郎(東京大学院・農),馬渕浩司(東大海洋研),高村典子(国立環境研),西田睦(東大海洋研),鷲谷いづみ(東京大学院・農)

日本の自然水域に生息するコイ Cyprinus carpioには,日本固有の在来系統の他に,ユーラシア大陸から導入された育種個体に由来する導入系統が存在することが,最近のmtDNAに基づく研究により判明している.このうち琵琶湖に生息する在来型は,新たにレッドリスト(地域個体群)に記載されたが,その保全に必要な科学的な生態学的情報はほとんど得られていない.そこで本研究では,在来型の生態を明らかにするために,飼育条件下で捕食実験と行動解析をおこなった.実験には,在来野生型(琵琶湖産の野生個体),導入飼育型(飼育条件下で継代飼育されてきたもの),ニシキゴイ(新潟産)の3系統の幼魚(いづれも標準体長11-12cm)を用いた.これらの個体は,核ゲノムのSNPマーカーにより遺伝的な型判別をおこなった.

捕食実験では,水槽(60L)内に,コイ1個体とユスリカ・ヌカエビ・メダカを定量入れ,24時間後にコイが捕食した個体数を計数した.実験の結果,ユスリカの捕食数に違いは認められなかったが,在来野生型によるヌカエビとメダカの捕食数は他と比べ有意に多かった.また行動解析では,水槽とビデオを用いて,コイの定位行動,餌に対する行動および捕食者(木製のサギの嘴)に対する行動をそれぞれ数分間観察した.その結果,在来野生型は,他に比べて,深場や隠れ場の利用時間が長く,餌にアッタクするまでの時間が短く,また捕食者に対して逃避行動を示す時間が長かった.

以上の結果から,在来野生型は,警戒心が強く,餌に対して積極的で,かつ肉食性が比較的高いという特徴をもつ一方,導入飼育型やニシキゴイはこのような性質が弱く,「家魚化」の影響を強く受けていると推察された.

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