| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-161

チゴガニにおける社会行動の地理的変異と遺伝的集団構造

*山田有紗,古川文美子,遊佐陽一,和田恵次(奈良女子大・理)

社会行動が種内の地域集団によって変異する例は、陸生動物では知られているが、海産の無脊椎動物で明らかにされた例はない。また、行動の地理的変異を地域集団間の遺伝的変異と関連付けた研究例も、海産無脊椎動物では知られていない。

本研究では、干潟に生息するコメツキガニ科のカニ、チゴガニ Ilyoplax pusilla を用いて、waving(鉗脚を中心とした全身のリズミカルな運動)とバリケード構築行動(砂泥の構築物を近隣他個体の巣穴付近に造り縄張りを維持する行動)の地理的変異と、ミトコンドリアDNA COI領域からみた集団間の遺伝的差異を明らかにすることを目的とした。

チゴガニの分布域の北限地、南限地を含む6地域(宮城、千葉、和歌山、熊本、奄美大島、沖縄本島)でwaving様式とバリケード構築頻度を比較した結果、waving様式では、本土の4地域、沖縄本島、奄美大島の順に伸脚型をとる割合が高くなり、バリケード構築頻度も、本土の4地域、沖縄本島、奄美大島の順で頻度が低くなった。集団間の遺伝的差異については、奄美大島と沖縄本島が本土の4地域と遺伝的に大きく分化しており、行動の地理的変異と似た変異傾向を示すことがわかった。以上の結果から、社会行動でみられた地理的変異の特徴は、集団間のもつ遺伝的変異に基いていることが示唆される。

日本生態学会