| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-166
ツキノワグマ( Ursus thibetanus)は、暖・冷温帯広葉樹林を中心に生息し、構成する木本植物の果実に依存した食性を持つ。ツキノワグマは木登りが得意なため、樹上で果実の採食を行う。その際、樹上でたぐり寄せて果実を食べた枝が、鳥類の巣のように顕著な痕跡となり残ったものを「クマ棚」という。これまで、「クマ棚」は、ツキノワグマの分布調査や個体数調査の補助的な資料として用いられることはあったが、「クマ棚」の形成数とツキノワグマの食性との関係や、長期的な形成数の変動は注目されてこなかった。そこで、「クマ棚」の形成時期、形成数の年変動とツキノワグマの食性、結実豊凶の関係を明らかにすることを試みた。
山梨県御坂山地(2000年から2005年)、東京都奥多摩(2003年から2007年)において、踏査ルートを設け、定期的に踏査を行い、ルート上で採取したツキノワグマの糞から食性を明らかにした。また、ルート上に位置するツキノワグマが果実を採食する主な樹種9種(ヤマザクラ、カスミザクラ、ミヤマザクラ、ウワミズザクラ、ミズキ、オニグルミ、コナラ、ミズナラ、クリ)の成木に対する、「クマ棚」の形成の有無を確認した。
ツキノワグマの食性と「クマ棚」の形成数との間には、液果を結実させる樹種(5種)では強い相関(r2:0.91から0.97)が認められたが、堅果等を結実させる樹種(4種)では、相関は弱く(r2:0.56から0.77)、種によっては豊作時でも「クマ棚」の形成数が少ない年があった。堅果類は豊作時には落果の利用も可能なため、必ずしもツキノワグマが多く果実を利用した場合でも、「クマ棚」の形成数に反映されない可能性がある。また、同時期に結実する果実種間でのツキノワグマの嗜好の違いにより、豊作時でも果実の利用が少なくなる可能性が考えられた。