| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-179
育雛中の親鳥は、雛への給餌速度を最大化しつつ、自身のエネルギー要求を満たさなくてはならない。これは、特に繁殖地から遠く離れた海洋で採餌を行う海鳥にとって、困難な課題である。
親鳥が、いかに行動を調節してこの課題を解決しているかを明らかにするため、2006年および2007年の7-8月、ベーリング海セントジョージ島で繁殖するハシブトウミガラスにデータロガー(深度−温度)を装着し採餌行動を記録した。同時に雛と親鳥の餌(種類とサイズ)を、雛への給餌の目視観察と親鳥の胃内容物分析を用いてそれぞれ調べた。親鳥は、自身の餌よりも大きな餌(スケトウダラ;>100mmなど)を雛へ給餌した。一方、自身はより小さな餌(スケトウダラ;<100mmやオキアミなど)を利用していた。採餌トリップ中最後の潜水バウト(雛の餌をとるための採餌と仮定)における潜水深度は、それ以外の潜水バウト(自身の餌をとるための採餌と仮定)における潜水深度よりも深かった。プリビロフ諸島周辺の海域では、表層の水温躍層周辺に、親鳥自身が捕食していた小さな(<100mm)スケトウダラやオキアミが多く分布し、水温躍層より下の深層に雛に給餌していた大きな(>100mm)スケトウダラが分布していることが知られている。潜水性の海鳥であるハシブトウミガラスは、雛の餌を1度に1つしか運ばないため、給餌量は選択された餌サイズに強く依存する。一方、自身の餌は、運搬の必要が無く採餌効率を上げるために必ずしもサイズの大きな餌を選ぶ必要が無い。ハシブトウミガラスは、雛への給餌速度を最大化するために深く潜り大きな餌を捕獲するとともに、自身は浅く潜り小さな餌を繰り返し利用することで採餌効率を上げ自身のエネルギー要求を満たしていると考えられた。