| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-182

捕食リスク認知が円網の上下非対称性に与える影響

中田兼介(東京経済大)

クモの円網は必ずしも真円ではなく、上下方向の半径の違いについて種間変異が見られる。この非対称性は固定的なものではなく、過去の採餌経験に応じて可塑的に調整されており、実験的に網の片側のみに餌をかけて採餌させると、その方向の網の半径が相対的に大きくなることが知られている。

さて、捕食者の存在が採餌活動性を低下させる現象が多くの動物で見られている。毎日網を張り替える円網性クモの場合、これは円網を構成する糸量の減少と言う形で現われると考えられる。サガオニグモ(Eriophora sagana)は上方向の半径と下方向の半径の平均値に有意差が見られない対称な円網を張るクモである。第54回大会では、本種を飛翔性捕食者の翅音を模した440Hzで振動する音叉に曝したところ、このような操作を行なわなかったコントロールと比べてその後の網の総糸長が有意に小さくなる事を報告した。

今回は、この操作が網の上下非対称性に与える影響を解析した。すると、操作後に張られた網も平均としては上下の半径に違いがなかったが、個々の網の非対称性のばらつきは、操作群の方がコントロールより小さいという結果が得られた。これは、飛翔性昆虫による捕食リスクを認識したクモが、より上下対称な網を張る傾向がある事を示している。さらに、水平方向と垂直方向の直径差に操作が与える影響も解析したところ、操作群では両方向の半径の差がより小さいという結果が得られた。これはより真円に近い網を張る事を意味している。これらの結果はまったく予想外であった。網の形状の変化は捕食回避に役立つとは考えにくいからである。このような反応をクモが示した理由を、単位糸投資量あたりの網面積に網の対称性が与える影響の点から考察する。

日本生態学会