| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-190
アリ生態学で得られる観測データはしばしば複雑な構造をとり,生態学的に意味のある情報を抽出するためにはデータ解析のための統計モデリングが必要不可欠である.この発表では,アリの行動データや体表面炭化水素 (CHC) 組成データを解析するときに階層ベイズモデルや神経回路網モデルが有用なツールになることを示す.
モデリングに使った観測データは, 2006 年夏に北海道のエゾアカヤマアリの石狩浜スーパーコロニー (SC) 内外で得られたワーカー (30 個体) を侵入アリとして SC 内の星置コロニー (以下,星置個体群) 付近におき,地元アリからうける攻撃行動などを観察・記録したものである.また同じ時期に星置 (SC 内) および厚田・忍路・定山渓 (SC 外) 個体群では,実験巣から 30 m 離れた地点で侵入アリを採取した場合についても同じように実験した.
行動連鎖やアリ個体の階層ベイズモデルでは巣間・スーパーコロニー内外の敵対性に与える要因を抽出した.この統計モデルは階層ベイズモデルとして定式化され, Markov Chain Monte Carlo (MCMC) 計算によって事後分布を推定した.その結果,SC 内どうしのワーカー遭遇であっても警戒行動をとる確率が高まり,antennation が攻撃確率を低下させることがわかった.
また侵入アリを 30 m 離れた地点から採取してくる敵対性実験において, (単巣性と言われる) 定山渓個体群できわめて高い頻度の攻撃的行動が観察された.この現象を説明するために,CHC 組成データを「学習」できるようなアリの触角を模倣した神経回路網モデルを開発した.異種の CHC 組成パターンにであう確率の高い「学習」環境においては nestmate 識別がより厳密になる可能性を示すことができた.