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一般講演(ポスター発表) P1-192
理論上、母親の大きさや母親の齢といった、母親の状況に伴う子への投資としての卵の大きさのバラツキは、形態的、生理的制約によるとされる。しかし、実際には、制約だけの非適応的説明では不十分なことがあり、現実に見られる母親の状況による卵の大きさの変化は、制約による非適応的な結果にすぎないのか、制約のかかる中での適応的な結果であるのかは不明瞭である。
母親の状況により子への投資が適応的に変化するものとして、性比の問題が有名である。即ち、投資に対する見返りが息子と娘で異なるとき、母親は、状況が良いときには見返りが良い方の性を産み、状況が悪いときには見返りが悪い方の性を産むとする。この性比の話を卵の大きさに援用すれば、卵の大きさあたりの適応度の見返りが息子と娘で異なるとき、母親は、状況が良いときには見返りが良い方の性の最適値の大きさの卵を産み、状況が悪いときには見返りが悪い方の性の最適値の大きさの卵を産むという仮説がたつであろう。言い換えれば、卵の大きさあたりの適応度見返りが息子と娘で異なる場合には卵の大きさはばらつき、異ならない場合には卵の大きさはばらつかない。
そこで、今回、この仮説の妥当性を探るべく、エゾスジグロシロチョウを用いて実験を行った。母親の大きさと母親の齢の2つの状況に伴う卵の大きさのバラツキを、卵の大きさあたりの適応度の見返りが息子と娘で異なる個体群と同じくする個体群間で比較した。その結果、2つの状況ともに前者個体群の方が、後者個体群よりも卵の大きさのバラツキが大きくなった。従って、エゾスジグロシロチョウで見られる母親の状況に伴う卵の大きさのバラツキは、制約だけによる非適応的結果というよりも、制約下における適応的な結果であることが示唆された。