| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-194

コバネヒョウタンナガカメムシ京都雌は岡山雄と交尾すると死ぬ

*日室千尋・藤崎憲治(京大院・農・昆虫生態)

多くの生物において雌は様々なコストを負うものの、直接的・間接的利益から多回交尾を行うことが知られている。しかし、雄にとって自らが交尾した雌の再交尾は、他雄との精子競争を引き起こす可能性が高くなる。そこで雄は雌の再交尾を抑制するために様々な戦術を用いている。その際、雄は雌の利益を考慮しないので雌雄間で再交尾の機会を巡る対立が生じうる。

コバネヒョウタンナガカメムシTogo hemipterus雄は交尾の際に再交尾抑制物質を送り込むことで、雌の再交尾を遅延させ、他雄との精子競争を避けている。一方、雌は長期間に渡って同じ雄の精子を使い続けることになり、もしその精子が不適な場合、雌の適応度に多大な負の影響を及ぼす。また、多回交尾の利益も得られない。そこで、雌は再交尾抑制物質に対し、阻害物質を作るなど何らかの戦術を採ることで、再交尾を巡る雌雄間の対立が生じている可能性がある。

本種は一般的に短翅で移動能力が低く、個体群間での遺伝子交流が少ない。よって、再交尾抑制物質を巡る雌雄間の対立(軍拡競走または赤の女王モデルにおけるベクトルの方向性や強さ)は個体群ごとで異なっていると考えられる。そこで、再交尾抑制物質を巡る雌雄間の軍拡競走は存在し、再交尾抑制物質に対する雌の反応は交尾した雄が同個体群由来か否かで異なるという仮説を立て、京都個体群雌を同個体群雄、異個体群雄(岡山個体群)それぞれと交尾させ、雌の再交尾期間(不応期)を調べた。その結果、京都個体群同士では、約40%の雌が再交尾し、その不応期は約17日間であった。一方、岡山個体群雄と交尾した京都個体群雌は、全ての個体が再交尾することなく死亡し、その生存期間は平均13日間と著しく短かった。以上より、再交尾抑制物質を巡る雌雄間の軍拡競走は存在しており、そのベクトルが個体群間で異なることが明らかとなった。

日本生態学会