| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-195
社会性昆虫は一般的に社会維持のためにグルーミング行動を行うとされている。しかしながら、巣仲間認識の観点からはこの行動に関してよく研究されているが、社会維持に脅威となる病原体や寄生者の防除という機能は、近年議論されはじめたばかりである。それは菌胞子を昆虫の体表に接種することで、間接的に死亡率や感染率を測定するといった結果をもとに議論されてきた。これに対して、我々はグルーミング行動そのものに着目し、その機能を直接的に測定することで、本当に菌防除に効果的な行動かを死亡率などと絡めて議論してきた。同じ社会性昆虫のシロアリなどでは他個体へのグルーミング(アログルーミング)が菌防除に有効であることが明らかにされてきた。しかし、アリ類ではアログルーミングばかりではなく、自己体表へのグルーミング(セルフグルーミング)も可能であるため、この行動にも病原菌防除の役割が期待でき、シロアリとは異なる免疫行動システムとしてのグルーミング行動を進化させてきた可能性がある。
本実験では、病原菌の濃度を変えてアリに接種し、またそのアリの密度を変えてグルーミング行動の観察を行った。行動の解析には一定時間計測したグルーミング回数を用いた。昨年までの研究で、アログルーミングとセルフグルーミングは菌濃度依存的に回数と比率が変化するトレードオフの関係にあることがわかっている。本発表では、セルフグルーミングのみしか行えない飼育区(1匹飼育)とアログルーミングも行える飼育区(他個体飼育)を比較することで、両グルーミング行動の病原菌に対する異なる変化を示して、さらに詳しくグルーミング行動の菌防御機構について考察する。