| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-200

多回交尾後のメスが保有する精子量:SNPs解析を用いた評価

*中原美理(東大・農学生命), 五箇公一(国立環境研), 椿宜高(京大・生態研センター)

多くの昆虫と同様、アオモンイトトンボのメスは複数の精子貯蔵器官を持つ(Bursa copulatrixとSpermatheca:以下BとS)。これまでの我々の研究から、これらには精子保存と利用において機能的に差があることがわかった。BはSよりも精子の維持能力が低く、交尾直後からしばらくの間はBの精子が産卵に用いられるが、時間の経過とともに器官から精子が消失する。一方、Sの精子は長期的に維持され、B内の精子減少に伴い産卵に用いられる割合が増加する。さらに、交尾したオスはB内の精子を掻き出して自分の精子と入れ替えること、Sの精子は掻き出せないことが推測されている(Sawada, 1998)。これらのことから、メスは次の交尾時に「掻き出される」B内の精子は短期間だけ利用し、コストをかけずに消失するに任せるが、必要な精子数はオスが触れることのないSに確保していると考えられる。ただし、各精子貯蔵器官にどのオス由来の精子がどれだけ存在するかを定量的に測定しないかぎり、この推定は確実ではない。オスにとってS内の自身の精子割合を増やすことが長期的な適応度増加に繋がり、逆にメスにとっては、交尾後の配偶者選択を行うためには、オスの干渉を受けない場所を設けることが重要と考えられる。よって、S内の精子は、オス間の精子競争、オスメスの利害対立、メスの配偶者選択の渦中にあると考えられるため、この器官において各オスの精子量を定量化することが必要である。そこで、我々は2オスと連続交尾したアオモンイトトンボのメスについて、貯蔵している精子の定量的評価を試みた。交尾相手であるオス2匹の塩基配列情報から多型(SNPs)を探索し、定量PCRを用いたプローブ法により、2オスの精子が混在したサンプルから各オス由来の精子DNAを定量化した。

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