| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-203

Dulichia sp. (端脚目・ドロノミ科) のマスト状構造物形成行動

*新居洋吾,青木優和(筑波大・下田臨海)

海中における甲殻綱端脚目の生活様式は,砂や泥などの中に住むものから岩や海藻等の上につかまって生活するものまで様々である.端脚目の中には胸肢から Amphipod silk と呼ばれる分泌物を出して生活の基質を作る種が存在する.その方法には,砂や泥の中に穴を掘りその壁面を粘液で補強するものや,堆積物を粘液で固めて管状の構造を作るもの等がある.その中で Dulichia 属や Dyopedos 属の数種は,海底から突出したマスト状構造物を構築してその上で生活するという特異な生活様式を持つ.マスト状構造を作る利点について,Thiel(1997) による Dyopedos monacanthus の個体群動態の研究からは,親子同居による保護行動が示唆されている.また,濾過摂食を容易にする,マスト上に付着した珪藻を摂食することが出来るといった摂食についての利点があることが示唆されているが,実際には不明である.マストを構築する種は,現在までに Dulichia 属で 2 種 Dyopedos 属で 2 種が知られているが,マストの材料として何を用い,どのようにして構築しているのか明らかとされていなかった.そこで,静岡県下田市大浦湾内に生息する Dulichia sp.について,野外採集したマストの構成成分の解析および,実験室内におけるマスト構築行動の観察を行った.マストの内部には泥や海藻の破片が多く含まれており,一方でマストの外側には破砕されていない付着性の珪藻が多数存在していた.また,Dulichia sp.の糞粒の中にはマストに付着していたものと同種の珪藻類が多数含まれており Dulichia sp.はマスト上を這うように移動してマスト上の珪藻を摂食している可能性が示唆された.

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