| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-206

アカネズミ個体群の遺伝的空間構造

*小林まや(首都大・院・理工・生命),坂本信介(都立大・院・理),鈴木惟司(首都大・院・理工・生命)

メスが単独でテリトリーを持つネズミ類では、メスは出生地に留まる性質を示す。出生地のようによく知っている場所では、捕食の回避や資源の効率的な利用において有利だが、十分な空きスペースがないかぎり、テリトリーの獲得には血縁者間での局所的な競争が伴う。これまでさまざまな群れ性の種では社会性が介在する遺伝構造について研究されてきたが、単独性の哺乳類ではこのような研究は限られており(McEachern et al. 2007)、テリトリーの獲得における血縁関係の影響についてはあまり判っていない。

本研究ではマイクロサテライト遺伝子座、およびmtDNAコントロール領域を解析することによって、アカネズミ個体群の遺伝的空間構造やテリトリーの獲得について調べた。解析対象は、2001年春の繁殖期に約1.2haの林で捕獲されたテリトリーメスと、その子と推定される個体である。調査期間中は高頻度で捕獲が行なわれ、個体ごとの繁殖履歴とテリトリーが詳細に把握されている。遺伝子解析には他のアカネズミ類用に開発されたプライマー(Ohnishi et al. 1998、Makova et al. 1998)を用いた。調査区は開放区であったため、自然な分散を観察できていると考えられる。

解析の結果、6組の親子関係が明らかになった。1例を除き、隣り合うテリトリーメスのハプロタイプは異なっていた。空間分布やマイクロサテライトによる親子判定も加味すると、出生直後は親子が集中して分布していたが、続く繁殖期には親か子のうちの1個体が縄張りに残留し、他は分散したようだった。集団内に血縁者グループの構造は観察されなかった。

日本生態学会