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一般講演(ポスター発表) P1-207
チゴガニIlyoplax pusillaは、砂泥性潮間帯に造穴して生息する小型のカニであり、繁殖期にwaving displayを行うことが知られている。本種の雄は、雌が接近するとその雌に向けてwaving (directional waving)を行い、巣穴に誘い込むことによってつがいを形成するため、このwavingは求愛の機能をもつとされている。しかし、雄は、周囲に特定の相手が存在しない場合にも非常に頻繁にwavingを行う。特定の相手には向けられないこのwaving (non-directional waving)の機能は、これまで明らかにされていないが、繁殖期に限ってwavingが観察されることから、つがい形成に機能している可能性がある。
本研究では、チゴガニにおけるnon-directional wavingが雌雄どちらの存在下で活発になるかを明らかにすることと、non-directional wavingが雌獲得上どのように機能しているかを明らかにすることを目的として、野外での操作実験を行った。結果、実験雄は、周囲が雄のみの場合に、雌のみの場合よりも高い頻度でwavingを行った。加えて、近隣雄の活動個体数が多いほどよくwavingを行う傾向が見られた。また、waving個体数の多い集団と少ない集団の間で、雌の選好性を比較したところ、雌はwaving雄の多い集団を選択することが示された。
これらの結果から、チゴガニのnon-directional wavingは、雄間競争を通じて活発化し、集団効果によって遠くの雌を誘引することで、つがい形成に寄与していると云える。