| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-212

形質転換酵母の発現系を用いたシロアリ卵認識フェロモンの生産

清水 健, 松浦健二(岡大院・環), 田村 隆(岡大院・自), 小林憲正(岡大院・環)

1922年にフレミングによって発見された抗菌タンパク質リゾチームは、N-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸がβ-1,4結合した多糖類を加水分解する酵素である。この多糖類を主成分とするペプチドグリカンによって構成される細胞壁を持つバクテリアは、リゾチームによって溶菌される。リゾチームは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類から昆虫類にいたる様々な動物の体内において合成され、バクテリアに対する溶菌作用によって、これら動物体内における免疫機能や消化機能をつかさどっている。このことからリゾチームは、動物が進化の最も早い段階で獲得した細菌に対する防御手段のひとつであると考えられてきた。

最近、リゾチームが溶菌酵素としての機能のほかに、昆虫のフェロモンとしての機能を持つということが明らかになった。真社会性昆虫であるヤマトシロアリは、抗菌成分を含んだ唾液を塗りつけることによってカビやバクテリアなどの病原菌から卵を保護している。ワーカーが卵を認識する際は、表面の化学物質をcueにしていることが知られていたが、この卵認識フェロモンがリゾチームであることが特定された。このことは、対病原菌の防御物質として前適応的に存在していた抗菌酵素が、社会進化の萌芽的段階において二次的に卵認識フェロモンとして利用されるようになった結果であると考えられる。

リゾチームの卵認識フェロモンとしての活性部位は酵素活性部位と必ずしも共通であるとは限らない。また、そのシグナルとしての活性部位はシロアリの卵認識にとどまらず、共生菌を含めた系全体に対してさらに多くの機能を提供するかもしれない。酵母の発現系を用いてシロアリリゾチームを生産し、アミノ酸断片から機能部位を特定することでこの可能性を探る。

日本生態学会