| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-213

アリーアブラムシ共生系における化学的コミュニケーション

*遠藤真太郎(信州大院・理・生物), 市野隆雄(信州大・理・生物)

アリとアブラムシは相利共生の例として有名であるが,アリはアブラムシを防衛するだけでなく,時に捕食することもある.これは人間が家畜を飼育し,維持・管理する「牧畜」に近いものと言える.

どのようなアブラムシが捕食されにくいかについて,Sakata(1994)は,同じコロニーのアリが随伴したり,甘露採集を行ったアブラムシは,そのコロニーのアリに捕食されにくいことを示した.これは,アリが自分たちの随伴しているアブラムシになんらかの化学的目印を付けていることを示唆している.

我々のこれまでの研究で,共生するクサアリ亜属とクチナガオオアブラムシ属では,アリの仲間認識物質である体表面の炭化水素(CHC)の組成がよく似ていることが明らかになった.これは,アリがアブラムシにマーキングするとことで似ているだけでなく,アブラムシ自身のアリに対する化学擬態も要因となっていた.

さらに近年,クチナガオオアブラムシ属の卵が冬期間アリの巣内で手厚く保護されることが明らかになってきた(Matuura & Yashiro 2006).相利共生関係にあるアブラムシの卵を保護することは,アリにとっても将来の食糧確保に有利である.しかし,大量の甘露を提供してくれる成虫と異なり,卵は今現在の食糧を提供してくれることはない.それにも関わらずアリがアブラムシの卵を保護するのは,何らかの化学認識物質の働きがあると考えられる.おそらくアブラムシは,卵の時期においてもアリによる保護を引き出すために化学擬態をしているのではないだろうか.そこで.アブラムシの卵のCHCを分析した結果,成虫や随伴アリのCHCとよく似た組成を持つことが明らかになった.さらに,アリ排除環境で産卵され,一度もアリと接触していない卵からも同一のCHC組成が検出された.このことから,アブラムシの卵もアリに化学擬態していることが示唆された.

日本生態学会