| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-214

ヤマトシロアリの兵隊分化に伴う額腺形成と幼若ホルモン量との関係

*渡邊 大・土屋真利子・前川清人(富山大・院・理)

シロアリは,様々なカーストへ分化した個体が異なるタスクを担い,集団生活を営むことで高度な社会性を維持している社会性昆虫である。例えば兵隊は,伸長した大顎や額腺で合成される忌避物質などを武器にコロニーの防衛を担う。従って,カースト分化の制御が社会性の維持に極めて重要であると言える。幼若ホルモン(JH)はその至近機構における中枢因子である。兵隊分化では,職蟻のJH量がある閾値を超えると兵隊の前段階である前兵隊への分化のスイッチとなって発生経路の改変が起こり,兵隊特異的な器官形成が開始される。兵隊は著しくタスクに特化した形態になることから,コロニー内で厳密な分化制御が必要だと考えられるが,兵隊特異的な器官形成とJH量との詳細な関係は不明である。そこで本研究では,ヤマトシロアリの額腺に注目し,兵隊特異的な器官形成における発生制御を明らかにすることを目的とし,以下の解析を行った。

まず,職蟻に様々な濃度のJHを投与し,前兵隊を誘導した。各個体の額腺の開口部である額腺孔を走査型電子顕微鏡で観察した結果,伸長した大顎を持つ個体は投与したJH濃度に関わらず同様の額腺孔を有した。従って額腺孔の形成は,JH量が前兵隊分化の閾値を超えた個体全てで同様に起こると考えられる。次に,職蟻・前兵隊・兵隊の額腺を組織切片により比較したところ,前兵隊の額腺は,兵隊の額腺とほぼ同程度に発達していた。前兵隊から兵隊への脱皮時にも活発に上皮細胞が増殖することで形態が大きく変化する大顎に比べ,額腺を形成する細胞は職蟻時のJH量に対して異なる応答を示すと考えられる。更に前兵隊分化時の大顎を詳細に調べたところ,職蟻時のJH量依存的に前兵隊の大顎伸長量が増加することが示された。以上より,兵隊特異的な器官形成は,JH量によって器官ごとに異なる発生制御を受けることが示唆される。

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