| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-215

オキナワシロアリのカースト決定に対する遺伝的効果

清水愛美(茨城大院・理工),林良信,北出理(茨城大・理)

ヤマトシロアリ属の個体は、孵化のあと脱皮を経て有翅虫に至る「ニンフ」の発生系列と、翅を持たない「ワーカー」系列のいずれかに分化する。このようなカースト決定は、これまでコロニー内の他個体によるフェロモンの作用などの外的要因によるものと考えられてきた。しかし最近、ヤマトシロアリReticulitermes speratusのワーカー・ニンフ双方に由来する幼形生殖虫を用いた交配実験から、(1)生まれた幼虫は、両親の由来するカーストと自身の性により明確に異なる分離比で両カーストに分化し、内的要因がカースト決定に強く関わっていること、(2)この分離比は性染色体上の1遺伝子座の遺伝モデルで説明可能なこと、が明らかになった(Hayashi et al., 2007)。また同属のカンモンシロアリR. kanmonensisにおいても、ヤマトシロアリの場合とほぼ同じ結果が得られている(Kitade他、未発表)。

本研究では、ヤマトシロアリ属オキナワシロアリR. okinawanusを用いて同様な交配実験を行った。交配パターンは、ニンフ型(ニンフに由来する)生殖虫同士、ワーカー型生殖虫同士、ニンフ型オスとワーカー型メス、ニンフ型メスとワーカー型オス、の4通りを設けた。そして生まれた卵はワーカーに育てさせ、3齢以降に達した時点で個体の性とカーストを判別した。

得られたオキナワシロアリのカースト・性の分離比は、ヤマトシロアリの場合(遺伝モデルの期待値)と似た傾向を示した。ただし、どの交配パターンにおいても、分離比は期待値からワーカーが多くなる方向に偏っていた。ヤマトシロアリと同様の遺伝的機構がオキナワシロアリのカースト決定にも関わっているが、実験結果にはワーカー率を上げるような別の要因も少なからず影響していることが示唆される。

日本生態学会