| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-217
真社会性昆虫の特徴の一つに,労働と繁殖の分業によるコロニーの生産性の増大が挙げられる.しかし個体レベルでは繁殖カーストの方が直接繁殖の利益を得られるので労働カーストに分化するよりも高い適応度を達成する.そこで労働カーストによる世話がカースト分化に影響する場合,幼虫において世話を要求する行動が進化することが予想される.
ヤマトシロアリReticulitermes speratusのカースト分化は2齢期に決まるが,その分岐にはホルモンや幼虫の栄養状態が強く影響すると考えられている.ヤマトシロアリの幼虫は顎が未発達なため自力での採餌ができず,また腸内に共生微生物も持っていないため,幼虫はワーカーに餌を要求していると予想される.また世話を受けるには幼虫はワーカーのそばにいる事が必要であるが,幼虫は脚を持ち移動が可能なためワーカーに積極的な接近をしていると予想される. そこでこれらの事を調べるためにワーカーと幼虫の近接はどちらが主体となってなされるのかと,ワーカーによる世話が幼虫の行動に影響を受けているのかを実験を行い検証した.その結果幼虫はワーカーに対し主体的に近接を維持している事が分かった.また幼虫が時折ワーカーをつつく行為が観察されたが,この行動を多く行った幼虫ほど多く栄養交換を受けていた.また栄養交換がされた場合の多くはこの行動の直後であった.以上の結果からヤマトシロアリでは幼虫がワーカーに栄養交換を要求している事が分かった.しかし仮に幼虫の栄養状態がカースト分化に影響を与える場合,働かない繁殖カーストの増加はコロニーの生産性を低下させる事になり,ワーカーにとってはその要求に素直に従う事は適応的ではないと考えられる.本発表では実験の結果を踏まえ,ワーカーによる世話をワーカーと幼虫両方の立場から考察する.