| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-220
近年、全国的に里山の生物多様性が減少し、その保全が求められている。近畿大学奈良キャンパスは奈良市近郊の里山内に位置し、オオムラサキなど種々のレッドリスト種が生息している。キャンパス内の調整池には絶滅危惧2類に選定されているベニイトトンボCeriagrion nipponicum の生息も確認されている。そこで、本研究では本種の成虫個体群動態を中心に調査を行ない、保全に役立てることを目的とした。成虫個体群の推定は2006年と2007年に標識再捕法(マンリーパール法)で行なった。その結果、当キャンパスにおけるベニイトトンボは1年間に600〜1000個体が発生していると推定された。成熟個体の発生はいずれの年も6月中旬からであり、6月〜7月と9月〜10月の2つのピークが見られた。日平均気温が28℃に達する8月には再捕される個体数が極端に減少し、その後28.5℃を上回ると調査地において全く再捕されなくなった。しかし、9月に入り気温が26℃程度に低下すると成虫が再び確認されるようになり、その中には7月に標識を行なった個体も含まれていた。このことから、本種は高温になる夏季にはアオイトトンボのように成虫で越夏を行なっている可能性が示唆された。キャンパス内に点在するため池間の移動率は低いと推察され、日射や植生等の環境条件により細分した調査区においては木陰およびブッシュと水辺が隣接する場所において多くの個体が再捕された。以上のことから本種の保全には連続した水系ネットワークおよび周辺植生を含めた水辺環境の保全が重要であると思われた。