| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-253
絶滅危惧IB類に指定されているヒゴタイEchinops setiferは,全国の自生地において絶滅もしくは絶滅寸前の状況にあるが(環境庁2000),一方で様々な規模の栽培集団も存在している.広島県庄原市には,数十の開花個体からなる野生集団と,近隣の自生地で採取された個体を起源とし,数個体から数百個体の開花個体からなる栽培集団が存在する.また,熊本県阿蘇郡産山村ヒゴタイ公園では,その由来は明確ではないものの数千個体が栽培されている.このように,多くの個体が栽培集団を形成している絶滅危惧種の場合,これらの栽培集団も含む残存集団全体の遺伝的多様性や遺伝構造を明らかにした上で,管理単位(マネイジメントユニット)や保全戦略を決定する必要がある.そこで本研究では,ヒゴタイにおける遺伝的多様性および遺伝構造を明らかにするため,中国地方および九州地方に残存するヒゴタイ集団を対象にマイクロサテライトマーカーによる解析を行った.
中国地方および九州地方に残存する21集団(野生13集団,栽培8集団)について解析を行った結果,野生集団では遺伝的多様性が高いことが多く,野生集団の現状を維持すれば効果的に遺伝的多様性を保全できることが示唆された.また,固有の対立遺伝子を有する栽培集団もあり,種内の遺伝的多様性を保全する上で重要な栽培集団が存在することが示唆された。その一方で,広島県の栽培集団では,野生集団もしくは異なる栽培集団からの遺伝子の流入が認められた。このことは,栽培集団から野生集団への遺伝子流入も起こり得ることを示唆しており,保全上重要な集団の周辺地域においては,栽培個体からの人為的な遺伝子流動を抑制することが重要な課題であることが明らかとなった。