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一般講演(ポスター発表) P1-256
全国的に絶滅が危惧されるコイ科の淡水魚カワバタモロコは,徳島県では絶滅したと考えられていたが,2004年にハス田地帯の土羽を主体とする農業水路から58年ぶりに再発見された.しかし,本地域では高速道路の建設とこれに伴う農道・農業水路整備が予定されていた.そこで,カワバタモロコを含めた魚類などの保全策の立案を目的として,徳島大学,県立博物館,徳島県,当該市町村および西日本高速道路株式会社による産官学連携プロジェクトが立ち上げられた.ここでは,これまでの主要な研究成果および農家との連携による環境保全活動について報告する.
本地域には,カワバタモロコ以外にも徳島県版レッドデータブック掲載の魚類が7種,湿地性植物が11種確認された.これらの希少生物の保全の一環として,本種を指標種として,水路構造要因(水面幅,抽水植物被覆率)と水質要因(DO,pH,水温)からなる生息予測モデル構築し,水路環境修復措置により潜在的に生息が可能である30地点を推定した.本種の保全策として,これら30地点に加え,魚類の移動性を考慮し水路間のネットワーク性を向上する水路改修のゾーニング案を作成した.
水路整備に対する農家の要望は,本地域の標高が周辺地域よりも約0.5-1 m低い洪水常襲地域であったため,当初,排水性の向上と農作業の効率化を重視した単純なコンクリート柵渠工による改修であった.しかし,調査結果やそれに基づいたゾーニング案を地元説明会などを通じて示したことで,希少生物の保全を意識するようになりつつある.本地域の一部の農家では魚類の生息環境の改善のために水路の泥上げを実施したり,水田魚道の設置試験に協力してくれるまでになった.現在,ゾーンニング案の実現に向けた産官学と農家との連携による取り組みが始まりつつある.