| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-259

河川堤防草地の管理が草本群落に与える影響 - ツルボ(Scilla scilloides)は草刈りで増えるか? -

*柳沢直(森林文化アカデミー)・井口英人(水研クリエイト)

河川堤防は牧草などの播種によって形成された人工的草地も多いが、中には人との関わりの中で形成されてきた半自然草原もあるはずである。本研究では、木曽川河川堤防法面で大群落を形成する在来の植物ツルボに注目し、人間による草地管理の営みが植物群落に及ぼす影響を調査した。

調査地の木曽川河川堤防は、毎年6月と8月に草刈りが行われている。調査区内では、6月、8月、6+8月に、それぞれ草刈り鎌による除草を行い(それぞれ処理区a, b, c)、調査区外の機械による草刈りを行っている場所(対照区)と植生を比較した。また、調査区内には草刈りをせず放置した放置区も設けた。調査および草刈りは2005年3月から2007年11月の間に行った。2007年の群落の出現種数は、処理区aで42種と最も多く、処理区bが28種と最も少なかった。対照区は29種、放置区は35種、処理区cでは32種がそれぞれ出現した。2007年に計数した平方メートルあたりのツルボの花茎数は、対照区で最も多く、398本、放置区で最も少なく、35本であった。処理区bと処理区cではそれぞれ204本と191本、処理区aでは135本であった。放置区では、花茎を出さなかった個体の割合がその他の区画よりも大きかった。また、地表近くの相対照度の値はツルボ開花個体の割合が大きいところで大きかったことから、ツルボの開花に草刈りによる光環境が大きく影響していると考えられる。さらに、堀取りによる鱗茎重量の比較から、草刈りによる影響は開花だけでなく、個体サイズにも影響していることが明らかになった。

ツルボは3月から5月と8月から10月にかけての2回出葉し、残りの時期は葉を落として休眠する。この生活史サイクルと堤防での草刈りの時期が一致していることが、河川堤防でのツルボ群落形成の大きな要因であると考えられる。

日本生態学会