| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-265
野生動物の死体は、生態学・博物学・病理学・疫学・生物保全学といった多様な学問領域にとって重要な情報源である。ただし、従来においては、収集した死体を体系的・広域的・網羅的に扱うことが困難であり、その情報に対して空間解析等を行うことは稀であった。発表者らは環境省環境技術開発等推進費「野生鳥類の大量死の原因となり得る病原体に関するデータベースの構築(平成15〜18年度)」により、死体等から得られる情報を体系的にまとめ、その時空間解析可能とする情報システム(野生動物対応型電子カルテ)の開発を行った。本発表では、これらの成果のうち、野生鳥類の死体から検出された寄生虫の空間疫学的解析手法について述べる。
まずは、北海道内の行政機関等に保護収容された野生鳥類の市町村別統計データを解析した。その結果、地域の人口と野生鳥類の保護収容数とは高い相関が認められた(重回帰分析:相関係数0.6216、p<0.01)。このように「死体」から検出された病原体の分布様式を把握するためには、「死体」の分布様式の「偏り」を除去する必要がある。我々は、これらの「偏り」の補正方法として、様々な空間スケールで「クラスタ(島状の集中域)」を抽出する空間解析手法である「K関数」に着目した。まずは、酪農学園大学で収集された鳥類の死体417個体の空間分布様式を見たところ、北海道という大きな「クラスタ」を形成していた。これに対して、各寄生虫種が検出された個体の「クラスタ」は、それよりも小さな空間スケールに「内在」していた。このように「K関数」を用いることで、宿主と寄生体の空間分布の違いを見いだすことが可能となった。さらにベイズ統計等による欠測値の多い情報から本来の寄生体の時空間分布様式を「修復」する方法についても論議を行う。