| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-268

福岡県津屋崎干潟におけるカブトガニ幼生の成長とモニタリング手法の開発

*和田年史(鳥取県博・山陰海岸学習館), 板谷晋嗣, 秀野真理(つやざき海辺の自然学校)

カブトガニTachypleus tridentatusは近年の相次ぐ自然環境の消失によって生息環境を奪われ、各地で絶滅の危機に瀕している。そのため、本種の生息・繁殖地の保全と個体数の増減を監視するモニタリング手法の開発が急務の課題となっている。本研究では福岡県津屋崎干潟においてカブトガニ幼生の成長を明らかにし、それらを基にして個体数の増減を監視するためのモニタリング手法を開発することを目的とした。また、本調査を通して実践した、地域の自然環境の大切さを学習する環境教育についても報告する。

津屋崎干潟では体幅が8.05-76.00 mmのカブトガニ幼生の生息が確認され、それらの体幅組成は4つの多峰型分布を示した。カブトガニは脱皮を繰り返して成長するため、それぞれの単峰領域が各脱皮齢の体幅サイズの範囲とみなされる。3つの単峰領域を含む26 mm以上のカブトガニ幼生は毎年一回ずつ脱皮すると考えられているので、各脱皮齢の幼生個体数を毎年カウントすることによって、本種の個体数の増減を監視することができると考えられた。今回の野外調査で示されたカブトガニ幼生の成長率は、既知の水槽内飼育環境下での成長率よりも有意に高いことも明らかとなった。

カブトガニはその生活史の中で多様な沿岸環境を必要とし、経済優先の人為活動によって生存が脅かされている代表的な生物であることから、沿岸生態系を保全する上での象徴種ととらえることができる。それゆえ、本種は環境教育の教材としても適しており、本調査では小学生らが調査員としての役割を果たせるように研究者らがサポートする形で環境教育が行われた。今後も調査を継続してモニタリング手法を確立するためには、学校連携を含めて地域を巻き込んだ市民参加型調査に移行することが求められる。

日本生態学会