| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-279
栃木県日光市の戦場ヶ原湿原において、シカが湿原植生に及ぼす影響を明らかにするため、固定プロットを設置し、植生調査とシカの踏みつけや掘り起こしの痕跡を記録した。さらにシカ防御柵設置後に固定プロットにおいて再度植生調査を行い柵設置前と後の植生変化を検討した。
湿原内におけるシカの踏みつけや根系の掘り起こしの被害は森林に面した周縁部で顕著で、周囲の森林から隔たるほど減少した。このため、面積が狭い湿原ほど湿原中央部でも被害が認められた。このことから、シカが周縁部を主たる採餌場所として利用していることが示唆された。これは、泥炭が堆積する湿原内よりも土壌化が進んだ周縁部のほうが歩行しやすいこと、森林に素早く逃げ込みやすい場所であるためと思われる。柵設置により周縁部の植被率は回復したが、木道あるいは国道が造成された周縁部では、柵設置後も植被率や群落構造が変化しなかった。木道や国道付近は森林に面した周縁部よりも土壌化・乾燥化が進んでおり、そこにシカによる攪乱が加わると植生の回復が困難となる可能性が考えられる。木道や国道付近を除けば、シカ柵設置は湿原植生回復の応急的な措置として有効であるが、今後はシカの生息地である周囲の森林に伐採地のような採餌場所を供給するなど、シカが湿原を利用しにくい景観管理の実施が必要であろう。