| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-280

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボの生息地としての機能をもたせた人工的なヨシ群落の構造と動態

寺本悠子(筑波大院・環境科学),渡辺 守(筑波大院・生命環境)

レッドデータブックにおいて絶滅危惧I類に指定されているヒヌマイトトンボは、汽水域に成立するヨシ群落を生息地とし、同一の群落内で一生を完結する特異な生活史をもっている。三重県伊勢市で発見された本種の地域個体群の保全のため、2003年1月、生息地(約500m2)に隣接した放棄水田にヨシの地下茎を移植し、新たなヨシ群落(2110m2)を創出した(創出地)。本種の成虫は相対照度10%以下となるヨシ群落の下部で生活している。そこで、生活空間の光環境を低下させ、加えて開放的な環境を好む捕食者の侵入を防ぐため、創出地をヨシが密生するように管理してきた。本研究では、2003年4月から2007年10月までの創出地におけるヨシ群落を調査し、本来の生息地と比較することにより、本種にとって好適な生息環境といえるヨシ群落の構造を解析した。根茎を移植したばかりの2003年夏の創出地は、植え傷みなどの影響で自然高は低く、稈密度は低かった。その結果、群落下部の相対照度は高く、様々な蜻蛉目昆虫が創出地へ飛来し、ヒヌマイトトンボ成虫を捕食していた。そこで翌年から、前年に立ち枯れたヨシを残して、群落の稈密度を上昇させ、相対照度を下げたところ、他種の蜻蛉目成虫の飛来数は減少した。2005年以降は、ヨシの密度も自然高も増加したため、前年の立ち枯れたヨシを利用せずとも相対照度は低下している。この結果、他種の蜻蛉目の飛来数や生息数は減少し、一方、ヒヌマイトトンボの個体数は増加した。したがって、本種の生息地としてヨシ群落を創出する場合、群落下部の相対照度を低く維持することは、成虫の生息場所を確保するとともに捕食者排除の観点から重要であると考えられた。

日本生態学会