| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-284
琵琶湖における在来コイ科魚類の多くが、産卵場所として主に沿岸部ヨシ帯、農業用水路、水田を利用する。近年のコイ科魚類の減少にはこうした産卵場環境の悪化のみならず、生息地ネットワークの遮断などが影響していると考えられる。従って、琵琶湖における在来コイ科魚類の保全を考えるには、それぞれの産卵場所がどれだけ個体群の維持に貢献しているのかという定量データが必要である。端的な方法は、繁殖親魚の出生環境を調べることによって、有効な産卵場所の利用割合の現状を知ることであろう。そこで、本研究は、前段階として、コイ科仔稚魚の出生・生育環境を推定する手法を確立することを目的とした。
環境履歴推定には、生元素安定同位体分析を利用した。魚類筋肉の炭素(δ13C)・窒素(δ15N)・硫黄(δ34S)安定同位体比、および、硬骨組織の酸素(δ18O)・ストロンチウム(87Sr/86Sr)安定同位体比を測定した。δ13Cとδ15Nは生息場所の食物網構造によって規定され、δ34Sは酸化還元環境を反映することが知られている。また、耳石は代謝回転しないため、出生時からの環境を蓄積するタイムレコーダーとしての機能に着目した。耳石中のδ18Oは、水温環境の指標となりうる。また、87Sr/86Srは流入河川の地質的基盤を反映し、河川特異性を示すため、出生水系の推定に有効である。これらの安定同位体情報を重ね合わせることで、高解像度な生息環境履歴復元手法を確立するため、以下のような野外飼育実験を行った。琵琶湖周縁部6地点の水田にコイの卵を散布し、約50日間飼育した。その期間中、環境計測と試料採集を4回実施した。実験終了時に回収したコイ稚魚の各種組織の安定同位体分析を行い、生息環境指標としての有効性を検討した