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一般講演(ポスター発表) P1-289
エヒメアヤメ(Iris rossii Baker)は中国大陸,朝鮮半島および西日本に自生する小型のアヤメで,日当りのよい疎林や草地に生育する.本邦においては自生地が分布の南限に当たるため天然記念物に指定され保護されている場所がある一方,遷移の進行による生育環境の変化や採集などによって減少しており,レッドリストにも掲載されている.
調査地とした山口県防府市西浦のエヒメアヤメ保護区域(面積約6,400m2)では,1997年までは毎年2月に刈り取りによる管理が行われていた.その後1998年からは,優占種であるネザサとススキを抑制しエヒメアヤメの更新を促すために,7月を加えた年2回の刈り取りが行われている.本発表では1997年から2007年までの調査結果を基に,管理方法の変化がエヒメアヤメの個体群動態に与えた影響を検討する.
調査地における秋期の植生高の最頻値は1997年には80cmであったが,年2回の刈り取りの結果,その後は20cm程度に抑制されていた.エヒメアヤメの総個体数は,本発表における調査開始以前の1991年には259個体,調査を開始した1997年には268個体であったが,1998年以降多少の変動を示しながら増加し,2006年には567個体に達した.これは年2回の刈り取りによって新規加入個体が増加したことによるものである.一方,1997年時点で存在した個体の約90%は2007年時点でも生存しており,定着して一定期間経過した個体の死亡率が低いことが示唆された.結果率は7.3%から27.1%の間で変動し,一定の傾向は見られなかった.