| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-295

静岡県安倍川におけるカワラニガナの分布と繁殖生態

*大野雅彦,中尾友紀,山下雅幸,澤田均(静岡大・農)

近年、多くの河川で河床の安定化や外来植物の侵入などによって河原環境が衰退し、河原植物が減少している。静岡市を流れる安倍川も同様に河原植物の減少が報告されている。安倍川には丸石河原固有種であるカワラノギクAster kantoensisやカワラニガナIxeris tamagawaensisが生育していた。しかし、カワラノギクは1989年〜2000年の間に絶滅し、カワラニガナも近年確認されていなかった。本研究では、環境省RDBで準絶滅危惧に指定されているカワラニガナの分布状況およびその繁殖生態を明らかにし、保全のための基礎的な知見を得ることを目的とした。2006年および2007年に安倍川におけるカワラニガナの分布状況を調査した。その結果、中・上流部の18ヶ所でカワラニガナ個体群が確認された(2007年7月時点)。しかし、2007年7月と9月の台風による増水で5ヶ所が消失した。残った13個体群のうち、一万個体を超える大きな個体群が上流部で3ヶ所、中流部で2ヶ所存在していた。カワラニガナの繁殖特性を明らかにするために、個体群サイズの異なる6個体群を選び、袋掛け処理により、稔実率、自殖程度等を調査した。その結果、(1)頭花あたりの稔実率は平均37%(9〜67%)で、個体群間に差異が認められた。しかし、個体群サイズと稔実率との間には明確な関係はみられず、一万個体を超える大きな個体群でも稔実率の低い個体群があった。したがって、カワラニガナは1個体あたり多くの頭花をつけるが、稔実種子の生産は存外少ないと考えられる。(2)袋掛け処理によりポリネーターの訪花を排除した結果、稔実種子は全く得られず、個体群の存続にはポリネーターの訪花が不可欠であることが示唆された。

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