| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-296
オオムラサキはタテハチョウ科に属する準絶滅危惧昆虫で、かつては里山で普通に見られたが、近年の二次林伐採による生息地の消失や里山管理の放棄等に伴い個体数を激減させている。そのため各地で幼虫の食樹であるエノキや成虫の餌の樹液を出すクヌギ等を植樹し、生息地を復活させようとする試みがなされている。オオムラサキは幼虫でエノキ株元の落ち葉で越冬することが知られている。これは越冬幼虫が乾燥に弱く、樹上よりも湿度の高い落ち葉を選ぶためといわれている。しかし、野外において冬季のエノキ株元の湿度条件が幼虫に及ぼす影響は明らかにされていない。本研究は本種がかなり生息している近畿大学奈良キャンパス(奈良市中町)でオオムラサキの越冬幼虫と土壌水分量の関係を調査し、保全対策に役立てることを目的とした。また、本種に近縁な普通種ゴマダラチョウを比較対象として調査した。
2007年1月から3月にかけて近畿大学奈良キャンパス内に自生しているエノキの落ち葉を調査し、越冬していたオオムラサキとゴマダラチョウの越冬幼虫をカウントした。また、各エノキ株元より腐葉土を採取し、乾燥機に入れて水分を無くした状態の重量と乾燥前の重量との比較により含有水分量を推定した。
オオムラサキはエノキ株元の土壌水分量が高いほど多くなるという傾向が見られた。また、ゴマダラチョウ幼虫の方が土壌水分量の低い環境に有意に多く見られた。今後は各エノキ株元の土壌水分量と幼虫の死亡率との関係等を解明する必要がある。