| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-297

ミトコンドリアDNA解析による希少種イトウの遺伝的構造

*江戸謙顕(文化庁・記念物課),北西滋(北大・院・地球環境),小泉逸郎(北大・院・地球環境),秋葉健司(HuchoWorks),野本和宏(北大・院・環境科学),大光明宏武(酪農学園大・地域環境),山本俊昭(日獣大・獣医),東正剛(北大・院・地球環境)

北海道にのみ生息するサケ科魚類イトウは、各種レッドリストで絶滅危惧種として記載され、絶滅が憂慮されている。本研究では、地域や個体群等により異なることが予想されるイトウの遺伝的構造を把握し、より適切な保全策の立案に寄与することを目的として、イトウmtDNAに関する解析を行った。

解析は、北海道内主要分布域を網羅する20個体群321個体について実施した。mtDNAの3遺伝子座(Cyt-b、ATP-6、CR)について合計1678bpシーケンスを行ったところ、12種類のハプロタイプが検出された。これらハプロタイプの出現頻度や系統関係、AMOVA等の結果から、北海道のイトウ個体群は遺伝的に4つのグループ(日本海、オホーツク海、根室海峡、太平洋)に分けられ、明瞭な地域クラスターを形成していること、また、個体群(水系)間の分化も大きいことが明らかとなった。さらに、個体群内の遺伝的多様性に関しては、近年絶滅が相次いでいる道東地方の個体群において比較的多型が多く検出されたが、日本海やオホーツク海グループにおいては、個体群サイズが大きくても多型が確認されないものもあり、多様性の低さが示唆された。

以上より、イトウは地域・個体群の固有性が高いことから、各個体群は個別の保護管理単位として捉える必要がある。保全策は個別に立案・実施されるべきであり、遺伝的構造を無視した個体群間における個体の移植放流等は、原則として行うべきではない。また、イトウの遺伝的多様性を維持するためには、比較的多様性の高い道東地方の個体群の保全を優先的に図る必要があると考えられる。

日本生態学会