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一般講演(ポスター発表) P1-299
中部九州、阿蘇くじゅう国立公園に属する九重山域は、多くの火山体からなり、山頂から山麓にかけて、ミズゴケを主体とした泥炭湿地が点在する。当該地域に成立する坊ガツル湿原(大分県竹田市、53ha)とタデ原湿原(大分県九重町、38ha)が2005年にラムサール条約湿地として登録され、温帯としては例が少ない大規模な山岳湿地として貴重な存在となっている。本研究では、坊ガツル湿原において土壌環境の評価を行い、さらに植物分布とその成立環境との関係を明らかにすることを目的とする。
坊ガツル湿原は、中央部に登山道が縦断し、湿原が南北に大きく分断されている。南北両地域において調査ラインをそれぞれに設定し、微地形、地下水深の測定と併せて、土壌水の化学分析(pH、EC、主要イオン、TN、TP、DOC)、および植生調査を2006年8月から継続して行った。
その結果、湿原北部は、平均地下水深が20cm程度で、pHが4.7〜5.3を示し、ヌマガヤとヒメミズゴケとの混合群落が広範囲にわたって成立していた。一方、湿原南部では、平均地下水深が10cm〜+5cmで、pHは5以上で、ヨシやサワギキョウの被度が高く、斜面上部から下部に向かって、アキノウナギツカミ、ヒメミズゴケ、オオミズゴケ、アカバナとの共存関係がみられた。特に、冷温帯以北に分布する泥炭湿地では稀なミズゴケ種とヨシの共存が興味深い。PCA解析による土壌水の化学的特性を抽出した結果、Mg2+、Ca2+、SO42-の固有ベクトルが大きな第1主成分を持つことから、塩類含有量の多い地下水が土壌環境に大きく寄与し、種組成にも違いが生じる要因となっていると考えられた。本報告では、土壌環境の変動特性を含めて、坊ガツル湿原における植生の成立要因について考察する。