| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-304

小笠原諸島の河川における固有水生生物の生息域とその環境要因

*佐竹 潔,上野隆平(国立環境研),小林 哲(佐賀大),佐々木哲郎(小笠原自然文化研),野原精一(国立環境研)

小笠原諸島の河川にはオガサワラヌマエビなどの固有水生生物が生息しているが、その多くの種は絶滅が危惧されている。演者らは1998年より調査を行ってきたが、今年度は、河川感潮域とダム湖を主な調査地域とした。5月の感潮域の調査では、台風によるまとまった雨が降るまでは河口が閉塞する傾向が強かったが、八瀬川では出水により河口が切れて以降には塩分濃度が海水の80%濃度以上に上昇する現象が度々認められた。オガサワラモクズガニのメガロパ幼生が着底するのには塩水の遡上が重要であると考えられるが、環境要因のモニタリングにより塩水の遡上と河口閉塞との対応関係を確認することができた。また、12月のダム湖の調査では、父島の八瀬川水系の時雨ダムなど3つのダム湖および各流入・流出河川において環境要因の測定を行うとともに、ダム湖ではエクマン・バージ採泥器による採集およびD-フレームネットによる湖岸および流入・流出河川での採集を行った。その結果、いずれのダム湖の湖心部でも、水温は表層から低層まで大きく変わらず、水温躍層は認められなかった。時雨ダムと小曲ダムではエアーレーションがされており、溶存酸素は湖心部では表層から底層までそれぞれ7.1-7.4mg/lおよび6.7-6.9mg/lと大きく変わらないのにもかかわらず、底泥の直上部では0.3mg/l以下と低いことから、底泥による酸素消費の可能性が考えられ、これらダム湖の湖心部は固有水生生物の生息環境としては適していない可能性が示唆された。また時雨ダムおよび長谷ダムの流入河川およびその源流域ではオガサワラヌマエビなどの固有水生生物が採集されたが、ダム湖およびその流出河川では一部の地点を除いてこれらの固有水生生物は採集されなかった。

日本生態学会