| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-003
日本に生育するチャルメルソウ属の植物はそのほとんどがキノコバエ科の昆虫によって花粉が運ばれる。しかし、チャルメルソウ種間でも明確な送粉者の違いが見られ、それらは大きく、ミカドシギキノコバエ(Gnoriste mikado)1種にのみ送粉が行われるもの、複数種のキノコバエ(Allodia, Boletina, Coelosia等)によって送粉が行われるものの2つに分けられる。異なる送粉様式を持つ2種はしばしば同所的に生育するが、この場合、送粉者であるキノコバエ類は特定の植物種のみを訪れるため、種間では交雑が妨げられている。では、このような送粉様式の明確な違いは何によってもたらされているのであろうか?チャルメルソウ属の花の形態は種間で若干の差はあるものの、どれも非常に似ている。さらにキノコバエ類は夕方に頻繁に訪れるため、視覚よりも嗅覚が比較的重要であると考えられる。そこで本研究では花の匂いに注目して以下の実験を行った。
日本に生育するチャルメルソウ属12種を対象に花の匂いを採集後、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析を行った。チャルメルソウ属の花の匂いは大きく2つのタイプ、テルペン型、直鎖炭化水素型に分けられた。テルペン型は主にライラックアルデヒド等を含み、これらはミカドシギキノコバエ1種のみが訪れるチャルメルソウ種から放出されていた。また、直鎖炭化水素型は主にノナナールやデカナール等を含み、これらは数種のキノコバエ類が訪れるチャルメルソウ種から放出されていた。これらの結果から、チャルメルソウ属における花の匂いのタイプは植物の系統関係ではなく、送粉様式と明確な対応関係があることが明らかとなった。また、チャルメルソウ属では花の匂いの違いが、決定的に近縁種間での生殖隔離機構として働いている類い稀な系であることが示唆された。