| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-004

日本産チャルメルソウ属における送粉者が介在した生殖隔離機構とその適応的意義

奥山雄大・加藤真

ユキノシタ科チャルメルソウ属チャルメルソウ節(Genus Mitella Section Asimitellaria)は日本列島および台湾で13種に多様化を遂げた多年草の単系統群であり、野外集団ではしばしば2-3種が同所的に生育している。したがって本系統群は特に、近縁種間の相互作用(生殖隔離機構・遺伝子浸透・ニッチ分割など)という観点から植物の種分化・多様化メカニズムを理解するための格好のモデルとなると考えられる。

そこで本研究ではまず、同所的に生育するチャルメルソウ節の種間がいかにして生殖隔離を達成し、種の独自性を保って共存しているかを調査した。野外で種間雑種が滅多に見られない理由としては1)そもそも別種の花粉が柱頭に運ばれにくい、2)柱頭に別種の花粉がついても結実しにくい、あるいは3)交雑によって生じた種子は生存力が著しく低い、という3段階のメカニズムが想定できる。

200通りにも及ぶ網羅的な人工交配実験の結果、チャルメルソウ節においては種間交雑が稔性を著しく低下させ有害であるにも関わらず、2)および3)のメカニズムはあまり働いていないことが示唆された。一方で野外調査の結果からは、同所的に生育する種間では、常に1)のメカニズム、すなわち開花フェノロジーの違い、あるいは送粉様式の違いによって生殖隔離が達成されていることが明らかとなった。特にチャルメルソウ節には、ミカドシギキノコバエただ一種に送粉を依存するもの(シギキノコバエ媒)と、主にそれ以外のキノコバエ類に送粉を依存するもの(キノコバエ媒)という異なるタイプの送粉様式が見られるが、分子系統解析の結果からはこれら両タイプ間での送粉様式のスイッチングが繰り返し起こっていることも示唆された。

本研究の結果は、チャルメルソウ節で見られる異なる送粉様式のタイプが、有害な種間交雑を妨げる機構として進化した可能性を示唆している。

日本生態学会