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一般講演(ポスター発表) P2-009
植物集団の遺伝的多様性維持機構を解明するには、花粉を介した遺伝子散布の特性を把握する必要がある。本研究では長崎県対馬龍良山に広がる約100haの照葉樹原生林において、鳥媒樹種であるヤブツバキの有効な花粉流動を解析した。マイクロサテライト8遺伝子座を用いて、林内の5地点から選定した成木16個体と、それらの種子431個の遺伝子型を決定し、それらの遺伝子型を基にTwoGener(Two Generation Analysis)を用いて各母樹が受け取る花粉プールの母樹間の遺伝的分化(ΦFT)と有効な花粉親数(Nep)を推定した。また、花粉プールの遺伝子多様度(He)を推定した。全母樹間における花粉プールの遺伝的分化は大きいことが明らかとなった(グローバルΦFT = 0.106 [P < 0.001, AMOVA])。有効な花粉親数は少ないと推定されたことから(Nep = 4.7)、花粉提供者が少数、あるいは花粉親としての貢献に偏りがあると考えられる。各2母樹間の花粉プールの遺伝的分化を表すペアワイズΦFTと、母樹間の空間距離の間には、弱いが有意な正の相関が認められたことから、距離による隔離がヤブツバキの交配を制限していると考えられる。しかし、どの母樹間距離においてもペアワイズΦFTの分散が大きかったことから、距離による隔離以外の要因もヤブツバキの花粉流動に影響を及ぼしていると考えられる。全母樹が受け取る花粉プールの遺伝的多様性(全母樹におけるHe = 0.764)は、各母樹が受け取る花粉プールの遺伝的多様性(平均He = 0.686)より高かった。本研究のヤブツバキ集団において、交配相手が限られることから生じた母樹間における交配の異質性が、集団全体での遺伝的多様性を高めていると考えられる。