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一般講演(ポスター発表) P2-010
ある特定のポリネータを効率的に誘引し送粉する、いくつもの形質が協調して機能する系は送粉シンドロームと呼ばれる。送粉シンドロームの例としてキスゲ属のハマカンゾウとキスゲが挙げられる。ハマカンゾウはアゲハ・ハナバチ媒花、キスゲはスズメガ媒花であり、ハマカンゾウは昼咲き、赤花、花香なし、キスゲは夜咲き、黄花、花香ありという特徴を持つ。キスゲの薄い花色で花香ありという特徴は他のスズメガ媒花の植物と共通するものであり、これらの形質は単独、或いは協調してスズメガを誘引していると考えられる。夜咲きのキスゲはハマカンゾウ的な形質を持つ昼咲きの祖先種から進化したといわれており、その進化過程では開花時間に加えて、花色や花香の形質も重要な役割を果たしていたと予想される。
そこで、祖先種の集団の中に変異株が出現したという進化の初期過程を模した野外実験を行った。2006年には、ハマカンゾウ24株に黄花、花香ありの雑種F1株を12株混ぜ実験集団とした。また2007年には花色と花香の効果を別々に評価するため、花色、花香の大きい変異を持つ雑種F2株を混ぜた実験集団を作り、ハイビジョンカメラを用いてポリネータの行動を記録した。
その結果、雑種F1を使った実験ではアゲハはハマカンゾウに、スズメガは雑種F1株に有意に訪花していた。雑種F2株を用いた実験では、アゲハは赤花に、スズメガは黄花に有意に訪花していた。一方、花香はアゲハ、スズメガの訪花に有意な効果はみられなかった。以上のことから、昼咲きの祖先種から夜咲きのキスゲへの進化には花香よりも花色の変化が重要であったと考えられる。