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一般講演(ポスター発表) P2-017
成体自身が移動することのできない陸上植物は、主に種子や胞子を散布することによって分布域を広げてきた。分布域の広さは種によって様々だが、分布域が広くなれば広くなるほど、集団間の遺伝子流動の低下や、地域的な選択圧の違いが生じ、集団間の遺伝的分化や種分化が起こる可能性が高まると考えられる。ところが、汎熱帯海流散布植物は多くの植物にとって分布拡大の妨げとなる海を利用して種子を散布することで、極めて広大な分布域を獲得いる。しかし、汎熱帯海流散布植物の世界各地の集団間で、種子散布による遺伝子流動が実際にどの程度おこなわれているかについては、これまで全く明らかになっていない。そこで本研究では汎熱帯海流散布植物のひとつであるアオイ科フヨウ属のオオハマボウと近縁4種に着目し、葉緑体および核遺伝子マーカーを用いることで、全球レベルでの遺伝的構造と集団間の遺伝子流動について明らかにすることを目的とした。
系統学的解析から、近縁4種はオオハマボウを母種として、その分布域の周辺や海洋島で分化してきた可能性が高いことが示された。また、集団遺伝学的解析からは、太平洋・インド洋地域のオオハマボウ集団は遺伝的分化が非常に小さいことが明らかとなった。このことはオオハマボウが東西2万キロにもおよぶ範囲で、頻繁な遺伝子流動をおこなっていることを示唆している。さらに、葉緑体と核遺伝子マーカーの比較から、旧世界のオオハマボウと新世界のアメリカハマボウの間で遺伝子浸透が起こった可能性が示唆された。遺伝子浸透に由来すると推測されたアメリカハマボウのハプロタイプは新大陸の大西洋側のみに見られた。この結果は、長距離種子散布によるオオハマボウの移住が、現在両種の分布境界になっている大西洋を越えて生じたことを示唆している。