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一般講演(ポスター発表) P2-018
種子散布は森林の更新を左右する重要な過程であり、その理解には種子散布を担う散布者の解明が必要不可欠である。温帯では、ほとんどの液果樹木は散布者となる鳥の渡りの時期である秋に結実する一方で、鳥の繁殖期にあたる夏に結実する液果樹木もわずかながら存在することが知られている。夏と秋では散布者となる鳥の種組成や行動が劇的に変化するため、鳥の種子散布への貢献度や種子散布パターンも大きく異なることが予想される。
そこで本研究は、結実期の違いによる鳥の種組成、訪問頻度、行動の変化が種子散布効率に与える影響を明らかにすることを目的に、日本の冷温帯林に広く同所的に分布するサクラ属Prunusのカスミザクラ(夏結実)とウワミズザクラ(秋結実)を対象として調査を行った。
茨城県北茨城市の小川試験地(6ha)において、2006年8-9月(秋:ウワミズザクラ)、2007年6-7月(夏:カスミザクラ)に結実木を訪れた鳥の行動観察を行った。カスミザクラ、ウワミズザクラについて、それぞれ42.1時間、4.7時間樹冠を観察した。また、種子散布効率の指標として、2007年5月に当年生実生の分布を調べた。
その結果、カスミザクラの果実を摂食に訪れた主要な鳥はヒヨドリ1種であったのに対し、ウワミズザクラを訪れた主要な鳥は、ヒヨドリ、エナガ、メジロの3種であった。また、カスミザクラの実生は樹冠内に多く発生していたのに対し、ウワミズザクラの実生は樹冠外に多く発生していた。
これらの結果から、夏結実種には特定の鳥が訪れるが、秋結実種には多様な鳥が頻繁に訪れることが明らかになった。その結果として、当年生実生の分布が異なった可能性が考えられる。したがって、結実季節は種子散布者、種子散布効率に影響を与えることが示唆された。