| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-019

融雪洪水によるサワグルミ種子の散布

*五十嵐知宏, 上野直人, 清和研二 (東北大院・農)

冷温帯地域では融雪洪水が毎年発生し、河畔生植物の繁殖や更新に大きく関わっていることが知られている。特に、河川の流水による種子の散布には融雪洪水といった季節的な洪水が大きく影響していると指摘されている。

本研究は山地渓流沿いに分布するサワグルミの種子散布における河川の流水の有効性を明らかにすることを試みた。調査は宮城県の江合川支流の田代川で行った。2006年10月中旬に蛍光塗料で標識した種子20,000粒を河川に投入し、標識種子の分布を1.4 kmの範囲で調べ、積雪前と融雪後で比較した。さらに、同一の調査範囲においてサワグルミ稚樹の分布を調べ、標識種子の分布と比較した。

積雪前は倒木ダム、淵、瀬の順で種子が漂着しやすく、平均散布距離が308.1mであった。一方、融雪洪水後は大部分の種子が流し去られ、平均散布距離が846.2mにまで増加した。また、種子の分布は、積雪前は60cm以下の低い比高範囲に限られていたが、融雪洪水後では倍以上高い比高範囲にまで種子が散布され稚樹の分布域を包含していた。

本研究の結果は、積雪するまでの期間は種子が倒木ダムや淵に捕捉されながら緩やかに移動することを明らかにした。さらに、融雪洪水によって種子が長距離移動し、定着適地へ運搬されることがわかり、融雪洪水がサワグルミ種子の水散布に重要であることが示唆された。

日本生態学会