| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-021

温帯海岸林における陸ガニの種子散布

*伊藤信一(静大・教),鈴木智和(静大・教),小南陽亮(静大・教)

陸ガニの活動が海岸林の木本植物の種構成と多様性におよぼす影響を明らかにする目的で,静岡県浜松市西区村櫛町のアカテガニ,クロベンケイガニ,ベンケイガニの3種の陸ガニが豊富に観察された海岸林において,陸ガニによる果実採食と種子の持ち去りと人工果実による散布距離と散布場所の調査をした.2006年と2007年において,調査地内の海岸林ではアカメガシワとカラスザンショウの2種の種子が70%以上の高い持ち去り率を示し,その主な原因は陸ガニであると考えられた.室内で果実を採食させる実験を行ったところ,アカメガシワとカラスザンショウの種子はクロベンケイガニとベンケイガニによって多種の果実よりも有意に多く採食されたが,口器によって種子が破壊されていた.一方,アカテガニはクロベンケイガニとベンケイガニと比較して,破壊した種子の割合が有意に小さかった.陸ガニによって持ち去られた人工果実は,陸ガニの巣穴の入り口周辺や巣穴内部から発見され,散布距離は最大で5mに達した.3種の陸ガニのうちアカテガニは,巣穴から離れて活動していることが多く,採食後の種子を地表へと捨て去っているのが観察された.本研究により,クロベンケイガニとベンケイガニは種子破壊者としての傾向が強いのに対して,アカテガニは種子を破壊する傾向が弱く,種子を広範囲にばらまいている可能性が推測された.3種の陸ガニは果実採食と種子散布を通して,先駆種であるアカメガシワとカラスザンショウのシードバンクの量と分布に影響をおよぼしていることが示され,海岸林の更新において陸ガニによる果実採食と種子散布が無視できないと考えられた.

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