| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-057

都市域に生息する2種のイトトンボの遺伝構造に影響を与える景観要素

*佐藤真弓(京大・生態研),三橋弘宗(人と自然の博物館),神松幸弘(地球研),椿 宜高(京大・生態研)

人間活動による生息地の分断化は、生物の集団間の移動分散を妨げ、遺伝子の交流を分断することで、個体群もしくは種の存続に重大な影響を与えると考えられている。しかし、これまで最も生息地の分断化が激しいと推測される都市において、都市景観がどの程度、生物の移動分散に影響を与えているかについてはほとんど報告がない。そこで、本研究では都市(東京23区内)に生息する2種のイトトンボ(クロイトトンボ、アオモンイトトンボ)の集団遺伝構造をAFLP法を使って調べ、移動分散に影響を与える都市景観を抽出することを目的とした。まず、都市と郊外(茨城県南部)の集団の遺伝構造を比べたところ、両種とも、都市集団の間でより遺伝分化が進んでおり、都市の景観が移動分散を妨げている可能性が考えられた。そこで、地理情報システム(GIS)を使い、集団間の地理的直線距離と直線距離上の土地利用形態別の割合、更に人口建築物がある場所を移動する場合に負荷を加えた距離(加重コスト距離)を算出し、集団間の遺伝的分化の程度(FST)との相関を調べた。その結果、両種において主に高層建築物が占める土地に負荷を加えた加重コスト距離が最もFSTと高い相関を示した。しかし、低層建築物を含めた場合はアオモンイトトンボでは相関が低下し、クロイトトンボでは相関がなくなった。このことから、クロイトトンボの移動分散は高層建築物により強く妨げられるが、住宅地等の低層建築物の影響は少なく、一方、アオモンイトトンボでは、人口建築物全般が移動分散に影響を与えていることが示唆された。以上の結果と、それぞれの種が求める生息環境、更に都市域での分布から、都市という環境において、それぞれの種がどのように移動分散をしているのかを考察する。

日本生態学会