| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-063

湧水湿地内に見られる植生の分布と変化の要因: 土砂の移動が鍵を握るのか?

富田啓介(名古屋大・院・環境)

東海地方や西日本の丘陵地に多い泥炭堆積のない湧水によって形成される小規模な湿地・湧水湿地には、絶滅危惧種や地域固有種を含む植生が成立し、地域の生物多様性の維持に欠かせないハビタットである。湧水湿地は、1)ひとつの湿地内に異なる群落(多くの場合遷移段階の異なる群落)がモザイク状に成立する点、2)短期間での急速な植生変化が見られる点において顕著な特徴を持つ。このことから、湧水湿地内では植生変化を促す因子が不均等に発生しており、植生の変化に時間差が生じることが考えられる。本研究では、湧水湿地内における植生の「空間的な分布」と「時間的な変化」の双方を対象とし、これまで不明な点の多かった植生変化を促す要因と、変化のプロセスについて明らかにする。

事例調査地として、2007年までの約40年間で草本植生から樹林への遷移が確認された岐阜県恵那市の大根山湿地を選んだ。植生変化を促す要因を検討するため、従来から指摘されている「富栄養化」「乾燥化」「土砂移動・堆積」といった環境因子の分布と、湿地内に現在見られる各群落の代表種・植生(ミカヅキグサ属・ヌマガヤ・樹林)の分布を把握し、比較した。

なお、湿地各所の土砂移動・堆積の履歴は、1960年代をピークとする大気圏核実験に伴う放射性降下物Cs-137をトレーサーとして用いた。湧水湿地の土砂移動を計量的に把握する試みはこれまでになく、この結果についても報告する。

日本生態学会