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一般講演(ポスター発表) P2-078
ウラジロモミは主に本州中部の山地帯に生育する常緑針葉樹である。その更新様式については渓畔域における研究例が多い。その一方で、山地斜面における研究は少なく、山腹斜面域と渓畔域の更新様式を同じ視点から検討した研究は見られない。そこで、本州中部の奥鬼怒地域において、氾濫原から山腹斜面にかけて分布するウラジロモミ個体群について、生育場所と更新様式の関係を検討した。
鬼怒川の氾濫原を含む手白山(1849m)の北西斜面において、氾濫原に2ヶ所、山腹斜面に3ヶ所、計5ヶ所のコドラートを設置し、コドラート内をメッシュ(5×5m)に区切った。そして、樹高1.2m以上の個体のDBH、ウラジロモミ稚樹、実生の樹高を測定した。また、各コドラートの地表面の環境としてメッシュ毎に土壌深、露岩率(%)、林床植生の植被率(%)を記録した。
ウラジロモミ個体群のサイズ構造を見ると、氾濫原の河川攪乱後に成立した若い林分と急斜面の岩塊地に成立した林分では胸高直径階分布、稚樹・実生の樹高階分布が連続的だった。一方、他の3つのコドラートでは樹高の高い実生が少なく、稚樹個体密度も低かった。また、成木の胸高直径階分布も不連続的だった。
実生、稚樹の個体密度と地表面の環境との関係をメッシュ単位で検討すると、土壌深が浅いメッシュでは実生の個体密度が低く、土壌深が深いメッシュでは実生の個体密度が高かった。逆に、稚樹は土壌深が浅いメッシュで個体密度が高い傾向が見られた。また、土壌深が深いコドラートでは倒木上に生育する稚樹の割合が高かった。以上のことから土壌深が深いマイクロサイトでは実生が稚樹にまで成長しにくいものと考えられる。また、このような稚樹の定着サイトの相違が、本種の地形による更新様式の相違に関係していると考えられる。