| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-080

綾照葉樹林における主要樹種の実生定着過程の比較

*小南陽亮(静岡大・教育),永松大(鳥取大・地域),真鍋徹(北九州市立自・歴博),齊藤哲(森林総研),佐藤保(森林総研)

照葉樹林において優占的な樹種が同一林分内に共在できる機構を明らかにする目的で、宮崎県綾町の照葉樹林における主要な優占種を対象に、それらの実生定着過程を比較した。調査地の照葉樹林では1993年9月に台風攪乱が発生しており、その攪乱後の1994年4月から1998年3月にかけて1.2ha内に規則配置した263個の4m2方形区に発生した約16800本の実生を個体識別し、2004年2月までそれらの生残過程を追跡した。このようなデータセットを用いて、優占的な高木種のイスノキ、ブナ科カシ3種、亜高木種のクスノキ科3種、ツバキ科2種、その他常緑樹種3種の生存曲線を作成し、比較した。主要な分類群であるブナ科、クスノキ科、ツバキ科を比較した結果、クスノキ科の亜高木種は生存率が高く、発生から9年後でも40〜50%が生存した。一方、ツバキ科の亜高木種3種は初期の死亡率が高く、発生3年後の生存率は20%未満であった。カシ3種の生存曲線は、クスノキ科とツバキ科の中間に位置した。これらの分類群間には生存曲線の有意差が検出されたが、分類群内での生存曲線はかなり類似しており有意差は無かった。これらの結果から、実生定着過程の違いは、形質や特性で類似点の多い科内よりも、科間の違いが大きく、実生段階では科単位の更新戦略が支配的であることが示唆された。これらの種間で、共在できる機構を説明できるような空間的な分布の違いはみられず、科内の共在には実生定着後の更新戦略が大きな意味をもつと予想される。

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