| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-081
岡山県北部の中国山地にある毛無山(1218m)に残されたブナ林で,ブナの実生が発生した1996年以降,調査区を設けて追跡調査を行っている.
昨年の生態学会では,実生はチマキザサが密生している場合には発生後数ヶ月ですべて死亡したが,ササのない場合には10年後でも生存し,林冠の開閉に関係なく当初の20%程度が生存していることを報告した.また,実生の生存を光条件との関係から解明するために相対照度と積算日射量を測定した結果,ササなし調査区では林冠の開閉に関係なく4月下旬から5月下旬の林冠が閉鎖するまでの期間には光条件が良好であったが,林冠が閉鎖した調査区では6月以降には生存しなかった調査区と同程度に暗くなっており,実生の生存には展葉期の光条件が関係していると推察した.
今回は,1998年から2007年までの実生の生長量を元にして,生長量と光条件との関係について考察した結果を報告する.実生については毎年5月下旬と10月下旬にシュートの長さと直径(1割高)を,光条件については2006年と2007年の2ヶ年,4月〜11月に感光フィルムによる積算日射量を測定した.
10年間の実生の生長量については,ギャップと閉鎖林冠とを比べた場合,ギャップでの材積がいずれの調査時でも閉鎖林冠のもののおよそ5倍となっていた.
2年間の生長量と光条件との関係については,春期と夏期とに区分してそれぞれの期間の伸長量と積算日射量を比較した.伸長量はギャップでは積算日射量との関係が認められなかったのに対して,閉鎖林冠では積算日射量が少ない場合には,積算日射量が増加するにつれて増加していたのに対して,積算日射量が多い場合には,逆に積算日射量が増加するにつれて減少していることが明らかになった.このことは,春季の良好な光条件は展葉期にある実生の生長には関係していないことを示唆していると考えられた.