| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-087

秩父山地天然林に優占するブナとイヌブナの実生と成木の分布

*石塚航,梶幹男(東大・演習林)

太平洋側の山地帯では、同属であるブナ(Fagus crenata)とイヌブナ(Fagus japonica)両種が優占する林分が形成されている。これらの個体群維持機構の解明には、両種の分布と更新動態を直接比較し、評価することが重要である。本研究では、東京大学秩父演習林のイヌブナ−ブナ天然林を調査地とし、それぞれの成木の分布に排他性、地形依存性が検出されるか、および更新に大きく寄与すると考えられる実生の密度は成木分布によってどの程度規定されているか、同時に実生密度は光環境にも依存性があるか、検証した。調査地に25m四方のコドラート27個を設置し、そのうちの10個で実生の全数調査を行った。調査は2007年5月から12月にかけて行った。イヌブナ当年生実生分については2006年の同調査地におけるデータを用いた。また、測量によって樹木位置・相対標高を求め、地形変量(傾斜角度、斜面方位、凹凸度、等高線曲率)を算出した。なお、成木の胸高直径(DBH)と樹高は秩父演習林から提供を受けた資料を用いた。

調査地において、イヌブナのみで萌芽幹からなる顕著な株構造が見られた。成木の平均密度はイヌブナのほうが若干高かったものの、平均材積はDBHの大きな個体が多いブナのほうが大きかった。実生については、2005年に豊作となったイヌブナが高い密度を示したが、そのばらつきも大きかった。成木材積を目的変数としたモデルによる回帰分析の結果、両種間にゆるやかな排他性があり、地形依存性も異なることが検出され、現在生育する成木の定着条件に差異があることが考えられた。次に、実生密度を目的変数とした回帰分析をした結果、実生年齢・種によって成木分布、および光との関係は異なって検出され、2種の更新初期段階の分布を規定する要因とその程度は多様であることが考えられた。

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